春に 花に主役を譲っていた葉っぱが
夏を過ぎ
ようやくその重い口を開いて
素敵な物語を語り始める
訪れた秋は
生き物達に
朝ゆっくりと目覚めさせ
夕には、これまでより ほんの少し
早く眠りにつかせる為に
子守り歌を聞かせる
優しく 立ち止まる時を感じさせて
切なく 寂しい心に黙って寄りそう
ある日ふっとやって来る秋に
恋しさは 募るばかり
又別れるその日まで
春に 花に主役を譲っていた葉っぱが
夏を過ぎ
ようやくその重い口を開いて
素敵な物語を語り始める
訪れた秋は
生き物達に
朝ゆっくりと目覚めさせ
夕には、これまでより ほんの少し
早く眠りにつかせる為に
子守り歌を聞かせる
優しく 立ち止まる時を感じさせて
切なく 寂しい心に黙って寄りそう
ある日ふっとやって来る秋に
恋しさは 募るばかり
又別れるその日まで
8月も半ばを過ぎると
太陽も、少しだけ力尽きる日があるようだ
そんな日には 風にまかせて
植物達が、尖った葉っぱの先などを
かさこそと擦れ合わせながら
うわさ話を始める
"きっとそのうちには 秋がやって来るはずだ゛
彼らも もうこの夏にはうんざりなのだ
近頃忙しそうに行き来しているトンボの郵便屋達に
どんな様子かを尋ねたりしている
もう少しして 彼らの根っこの間から聴こえて来るだろう祭り囃子を楽しみに
そわそわと来客達の宿を整え始めようとしている
遠くに見える祭りの火
蝉のなき暮らす声の中に
水音を探す
夏は
うつつと幻の間で
夢を探しにゆく時間
風鈴の音が 髪の間を通り抜け
私が、自分の中から消えてゆく
心は 遠く山里に遊び
プラネタリウムの星空に包まれたら
星屑をたくさんリュックに
詰めこんで
まだ出逢ったことのない
昔々の小説家に会いにゆく
朝、一輪の花が開いた。
待ち続けていた春の扉が、
今日開いた。
光の中を、
微笑みながら、自転車を走らせる子供達。
駈け出す子犬。
春の歌声が、耳元をすり抜けて行く。
走れよ、走れ
笑えよ、笑え
大きく息を吸って、
青き空の色のコートを纏
(まと)って行こう。
今日の春は、あなたのものだから。
今このひと時は、あなたのものだから。
まだ指先に冷たさが残る頃、
枯れ木の根本の所の乾いた地面に
春を待つ様に陽(ひかり)が当たり、
雀の子らを遊ばせている。
これから萌えいずる物たちは、
もうほんの少しの間眠りについている。
この静かな時を納める陽(ひかり)は、
公園の木々の間で穏やかに過ごす母子を見守り、
迷いながら歩む人の足の前を照らす。
窓から眺める人に、柔らかな情景を見せ、
誰の励ましより優しく、さりげない愛を与えている。
陽(ひかり)よ
讚美無きこの細い道を
進み続ける勇気を私に宿して欲しい。
これからやって来る眩しい季節が、
それを忘れさせてしまわない内に。
遠くでかすかに聴こえてる
少しずつ こっちに向かってやって来る
だんだん大きくなってきた
ああ やっぱり来たんだな
秋の音楽隊
指揮を執るドラムメジャーを先頭に
打楽器が木(こ)の葉を揺らし
ホルンが絵の具のふたを開ける
黄 オレンジ 赤
フルートが鈴の実を散らせば
トランペットは空を高く、青く突き抜けさせる
軽快なリズムと心踊る旋律が
木々を美しく染め上げて
何もかもすっぽりと包み込む
目の前を通り過ぎるのをずっと待っていたのに
もう 白と金色の制服達の 後ろ姿の行進が、
向こうの方の見えている
だんだんと遠くなって、
小さく見える音楽隊
かすかな音が響いてる
あちらこちらに彩りの足跡と
愛しさの余韻を残して去ってゆく
北風に指揮杖(バトン)を渡して
小さな種が地面に落ちると、其処から美しい芽が顔を出す
お母さんそっくりの可愛い赤ちゃんが目の前を通り過ぎる
ここはなんて不思議な世界なんだろう
木の梢の鳥のさえずり
澄んだ川面に見え隠れしている生き物
陽の光と風と雨が全てを守り育てる
森は、木々と動物や虫達みんなのもの
海は、珊瑚や魚達みんなのもの
この奇跡の様な世界の中に
人間達もほんの少し腰掛けさせてもらっている
お日様の光ときれいな空気と水で、やっと生きていける
「有難う」と言って、
なるべく汚さない様に
なるべく迷惑を掛けない様に
知恵を絞って、
「有難う」と言って、
他の生き物達と同じに
この星の一員として、
麗しい一瞬の時を刻んで
生まれ、去って往く幸せ者で有りたい
紫陽花の方は、いつも空を見つめていた。
鈍よりと編み込まれた、グレーの雲を突き抜けるその眼差しの瞳は、恥じらいを漂わせながらも、奥底に真の強さを感じさせる、深い湖の青だった。
けれど彼女は、自分には他の花達の様に、陽の光を照り返して咲き輝く事の出来ないと言う雰囲気を、周りの静かな空気に白くにじませてもいた。
ある日の朝、紫陽花は空に頼んでみた。
自分にも、もっと強い光を照らして見てはくれないかと。
空は、紫陽花の願いを聞き入れ、太陽の光で、彼女を強く、強く照らし始めた。
光に照らされた彼女の頬は、濃い空の色と同じ様に輝き、高揚していた。
その様子を見詰めていたでんでん虫は、小さなため息をついた。
でんでん虫の目には、もう紫陽花が、他のダリアやグラジオラスと見分けがつかなくなってしまっていた。
幾日かが過ぎたある夕暮れ近い午後、紫陽花が、ふと足元に目を落とすと、一匹のでんでん虫が苦しそうにうずくまっていた。
紫陽花は、急に胸に苦しさを覚えた。
雨にぬれた地面の上で、ビー玉の様に光っていたでんでん虫が、今では干からびた他の石ころ達と見分けがつかなくなっていたからだ。
紫陽花は、もう照らす事を止める様に空に頼んだ。
空は、願いを聞き入れた。
しばらくしてにわか雨が、空から地面を濡らし、紫陽花もでんでん虫も、薄曇り色の宝石の様にキラキラと光り始めた。
紫陽花は、又パールの滴を身に散りばめていた。
その姿を見たでんでん虫は、嬉しくなった。
たとえずっと彼女と言葉を交わせない片想いだとしても、いつまでも幸せだと思った
薄曇りの早い朝。
まだ沈んでいるままの冷たい空気が、草に染み込んで行く。
今のうちは、まだ翔ばされる事もないだろう
蒲公英の種の、
そのぼんやりとした白い輪郭が
浮き上がる草原からは、
礼儀正しいまでの土と若草の薫りが
漂い、
静寂の世界を被っている。
薄緑のベールが掛かり無音の淵に
溶け込んで行く時、
自分と周りとの境界線が消え去って行き、
私は今日の目盛りを、又ゼロに合わせる。
春のその日に吹く風は、
薄桃色の、花びらの記憶を散らし、
萌木色の、始まりの間をかすめて通る。
小鳥に恋心を宿らせ、
そのさえずりが、人の胸の音符を揺する。
川底に淀んだ静けさを流れに変えて、
次へ、その次へと、緩やかに時を運び、
その先へ歩む道と、傍らに咲く菫の意味を、
耳元に問いかけて、立ち去って行く。